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超の世界

慶應義塾大学理工学部教授 小池康博1997年11月号 NO.289
21世紀の光ファイバー
-オールフッ素化ポリマーとは -

お話:慶應義塾大学理工学部教授
 小池康博



---プラスチック光ファイバーが注目されていますが、なぜ今プラスチックなのですか。
小池:光ファイバーというとガラス、つまりシリカの光ファイバーを思い浮かべると思います。既に日本でも幹線系の通信回線の70%は電線から光ファイバーに置き換わっていますが、これらは全部シリカです。というと、かなり光化が進んでいるように思われるかもしれませんが、ビルや家庭の中まで光化する本格的な光通信時代が到来する2010年頃には、使用される全ての光ファイバーの中でこうした幹線系は5%を占めるに過ぎません。残りの95%は米国では“最後の1マイル”と呼ばれ、まだほとんど光化が進んでいないのです。
 なぜかと言うと、シリカの光ファイバーでは、家庭内やビル内に配線するのに必要な相互接続が大変難しいからです。光ファイバーの接続には、光を通すコアの位置を正確に合わせる必要がありますが、シリカの場合はコアの直径がわずか5〜10ミクロン。髪の毛でさえ太さ約100ミクロンあります。だからシリカではファイバーの接続コストが非常に高くなって、最後の1マイルに使うのは現実的でないといわれています。



---しかし、プラスチック光ファイバーでは光の透過性が悪いのではありませんか?
小池:シリカの光ファイバーは透明度が0.3デシベルで、晴れた日に東京から富士山がくっきり見えるくらいです。プラスチックだと最も透明度の高い光学樹脂「ポリメチルメタクリレート(PMMA)」でも100〜200デシベル。普通の窓ガラスが1000デシベルくらいですから、かなり透明なんですが、高速通信で光信号の光源として使う波長1.3ミクロンの光は吸収しやすく、1万デシベルにもなって本当のレボリューションになる最後の1マイルにはやはり使えないのです。
 そこで私たちは、オールフッ素化ポリマーを用いたプラスチック光ファイバーを開発しました。フライパンに焦げ付き防止のためにコーティングされたフッ素樹脂と同様に、水も吸わないし火にかけても燃えません。理論計算では1.3ミクロンの光で0.3デシベルまで行きます。ですから、私たちの実験室で作ったフッ素化ポリマーのファイバーで、今まで手付かずになっていた最後の1マイルがカバーできるんです。それどころか理論限界値までできるとすると、数十〜100キロの長距離伝送まで可能になります。
 選択した材料への着眼点ですが、PMMAの棒は軽く、一方、ガラスの棒はひんやりしていて重たい。フッ素化ポリマーの棒は、触った感じはプラスチックですが、ガラスのように重たい。そこに私は何か、究極的なものを感じました。材料としてもフッ素樹脂は極めて安定していて、究極の材料になり得るのではないかと思っています。



---長期間使うと結晶化して透明度が悪くなることはないのでしょうか。
小池:本来テフロンは結晶化するものなのですが、今回の材料は結晶化しないアモルフォスフッ素化ポリマーなんです。ポリマーは長い鎖状の構造をしていて、一般に温度が高くなると鎖が折り固まり密度の濃淡が出てきます。それが屈折率の違いとなって光が散乱し透明度を下げる原因となってしまいます。今回使用されているフッ素化ポリマーでは、鎖に環状構造を持ったものを入れ、折り畳めなくしたのです。


---光ファイバーとして重要なのは透明度だけではないですよね。
小池:もう一つ、同じくらい重要なのは、光通信の波形を崩さないように伝送することです。そのためにはコアの屈折率が中心軸から周辺部にかけて徐々に減少するような屈折率分布を持つ構造が必要です。中心を直進する光線の受信部までの距離は短いのですが、光の媒体中での速度は屈折率と逆比例するので速度は遅くなります。一方角度を持って進入した光はサインカーブを描きながら進み、速度は速くなります。ですから、どんな角度で光が入っても到達時間は変わらず波形は崩れにくくなります。この屈折率分布のコントロールと、素材をいかに透明にするかという、二つの条件を満足させる技術を達成して、このファイバーが出来たのです。



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画:クロイワ カズ
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