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113番目の元素の名前は?

No.330/2006年11月号
独立行政法人 理化学研究所 准主任研究員 森田浩介
独立行政法人 理化学研究所 准主任研究員 
森田 浩介
周期表113番目の元素を、世界で初めて合成されてから2年たちましたが、そろそろ名前が付けられるのでは...。
森田:新元素合成の実験を始めたのが2003年9月。年末まで続けましたが成果が出ず、翌年7月頭に再開して23日に1個の合成が確認されました。次は2005年3月に始めて4月2日に2個目が確認されました。その後、3個目をめざし、インターバルを挟みながら今年5月まで続けましたが、出ません。3個目までは、やらねばならぬと思っています。
結局、連続徹夜実験を100日行って、やっと1個出来るか出来ないかという非常に起こりにくい現象だということが明らかになったわけです
3個は確認しないと、命名権を確立できないのですか。
森田:何個あれば大丈夫というのはわからないですね。元素の命名権を与えるのはIUPAC(国際純正・応用化学連合)で、その下に元素命名のワーキンググループがあります。いろいろな国の研究者で構成されており、現在は111番目のレントゲニウム(Rg)まで名前が付いています。このワーキンググループが、世界中から上がってきたものを検討し、「これはまだ実験の積み重ねが足りない」などの判断を下すわけです。
原子1個の合成で名前が付いたのは、109番のマイトネリウム(Mt)です。この場合は、Mtがα崩壊して、107番目のボーリニウム(Bh)という既知の元素に落ちたことが示されたので、命名権が与えられたのでしょう。しかし、それ以降は厳しく、111番のRgでは、ドイツのグループが3個合成して命名権を主張したのですが、不十分だといわれ、さらに3個つくって認められました。私たちも6個ぐらい出さねばならないのかと思ったのですが、あまりに合成確率が小さいので、別の主張が出来ないかと考えています。
113番目の元素はどういうものなのですか。
森田:94番のプルトニウム(Pu)までは自然界に存在しますが、それより重いものは人工的に合成します。113番は、ビスマス(Bi)薄膜を標的にして、亜鉛(Zn)イオンのビームを当て、BiとZnの原子核を正面衝突させてつくります。この方法は、冷たい核融合と呼ばれています。113番の存在時間は千分の2秒で、α崩壊を次々と起こして、113番から111番、109番、107番、105番の元素に順次落ちていき、21秒後に核分裂を起こして崩壊は終了します。
113番の3個目の合成はもちろん、その先の元素の合成もお考えですか。
森田:113番合成の装置に特別な改良を施すことなく、114番は行けるのではないか、と思っています。ビーム強度を上げねばなりませんが、これも目途がついています。
最近、ロシアのグループが、私たちとは違う方法で118番の元素を合成したと主張しています。彼らの方法では、α崩壊して既知の元素に行き着く以前に核分裂を起こすので、合成された元素の原子番号と質量数を同定するのが難しい。私たちも、ロシアのグループの結果を再現するための追試を行おうと考えています。
それには、標的に重たいウラン(U)やPuを使う必要があり、Uに関しては大強度ビームを照射しても劣化しないものの開発に成功しています。Uにニッケル(Ni)をぶつけて核融合を起こさせると120番ができます。ロシアのグループはPuに鉄(Fe)ビームを当てて、今年中に120番を合成するといっています。そういうことも視野に入れて、実験計画を立てています。定年退職までの10年余りで、3つくらい新たに合成できないか、というのが私の希望的な観測です。
113番の命名権が認められたら、何という名を付けられるのですか。
ジャポニウムがいいかなと思っていましたが、諸先輩方に「日本で初めて発見された元素に、日本人への蔑視語『ジャップ』を連想させる名前が付けられるのは耐えがたい」といわれています。
1908年に小川正孝博士(後の東北大学総長)が43番目の元素を発見したとして付けた名前がニッポニウムでしたが、これは間違いだと取り消されてしまいました。実は小川博士が発見したのは75番目のレニウム(Re)だったのです。ニッポニウムもいいと思うのですが、取り消された名前は付けられないというルールがあります。
実際に命名権が授与された暁には、悩むでしょうね。
画:クロイワ カズ

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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