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心と体をつなぐBMI

No.344/2010年2月号
慶應義塾大学理工学部 生命情報学科専任講師 牛場潤一
慶應義塾大学理工学部 生命情報学科専任講師 
牛場 潤一
BMI(Brain Machine Interface)のどんな研究をなさっているのですか。
牛場:医療分野での応用研究です。この分野では、脊髄損傷や筋ジストロフィー、四肢切断などで手足の不自由になった方の生活や社会参加を支援する研究が進んでいます。私たちも最初は、ネット上のバーチャル世界「セカンドライフ」で自分の分身「アバター」をBMIで動かすというコミュニケーションツールの開発を進めました。
BMIでは、頭につけた電極で脳波を検出、これをコンピュータで分析し、アバターや車椅子や義手・義足、家電などを直接動かします。大脳の体性感覚運動野には、手、足、胴など、それぞれの運動や感覚を制御する決まった場所があります。そして手を動かしている時と、同じような動きをイメージしている時には、同じ場所から似たような脳波が出ることが分かっています。これを利用して、手足を代替する道具としてのBMI研究が、まず進みました。
そして、今、新しい方向として、研究を進めているのがリハビリの道具としてです。
なぜ、リハビリなのですか。
牛場:じつは、手足が不自由になる最大の要因は脳卒中です。この場合、片麻痺がほとんどで、片方は動かせるので、手足の代替としてのBMIはあまり必要ありません。また、脊髄損傷や四肢切断とは違い、脳卒中ではリハビリにより、ある程度機能が回復します。そこが重要で、ある時、「BMIがリハビリの道具として使えるな」と思い、早速BMIリハビリシステムを組んでみました。
麻痺した手をモーターの入った箱の上に固定します。患者さんが指を伸ばそうとイメージすると、脳波の信号をBMIが分析して、モーターが動いて指が伸ばされます。ただし、脳波のパターンが指を伸ばすものと一致しないと、モーターは動きません。ここが大事なところで、脳の活動にもリハビリが必要です。アバターを動かすBMIでも、患者さんは何度もトライして初めて、真っ直ぐ進むイメージに対応する正しい脳波を出せるようになります。
脳がリハビリされると、今度は筋肉にも変化が生じ、リハビリ以前にはまったく出なかった筋活動の電位が検出されるようになります。BMIによって、脳の運動指令が正しく筋肉に伝わり、かつ運動指令に対応して正しく筋肉が動かされると、「筋肉から脳への感覚フィードバック」が生じます。この脳から筋肉へ、筋肉から脳へのループの形成と維持が、リハビリを促すようです。
画:クロイワ カズ
BMI研究の今後の展開、さらにはその先の夢をどのようにお考えですか。
牛場:BMIによるリハビリがどのように生じるかを、脳科学として明らかにしたいと思っています。また、それを基に、もっと効果のあるリハビリシステムを組みたいですね。例えば、1週間でも大きな効果があるようなものです。そして家庭でも気軽に使える、小型で安くて簡便なシステムを作りたいとも思っています。
その先の夢としては、BMIを起点としたシステムを、脳の機能状態を明らかにする道具にできればと思っています。今の脳ドックではMRIなどで形態的な変異をとらえることはできても、機能的な変化は読みとれません。機能変化が分かれば、例えば、リハビリ完了までにあと何%とかを示せ、患者さんの励みになるでしょう。
また、学生を育てることにも、夢を抱いています。恩師は、工学と医学の博士号をもち、私も学部の卒業研究以来、昼は理工学部で情報工学や電気工学の研究を、夕方からは医学部で医学部の先生たちと一緒に神経生理の研究を行ってきました。
私と一緒に研究をしている学生たちも、理工学分野での自分の専門をもちつつ、お医者さんとも話しができ、患者さんとも心を通わせなければならないという立場にあります。これは教育環境としては非常に恵まれており、いろいろな専門家を組織化して、1+1を5にも10にもできるリーダー人材が育てばいいなと考えています。私自身も若輩者なので、研究者・教育者としてもっと鍛えていかねばなりませんが・・・。
BMIは、映画『マトリックス』などに代表されるように倫理の問題とも絡んでいますし、デカルトの心身二元論をはじめとして哲学とも深く関わっています。このような分野で仕事ができるのは、大変ラッキーなことなので、ぜひ新しい概念を見出していきたいと思っています。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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