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メソポーラス物質の誕生

No.346/2010年8月号
早稲田大学先進理工学研究科教授 黒田一幸
早稲田大学先進理工学研究科教授 
黒田 一幸
今話題のメソポーラス物質(孔径2~50nmの多孔質材料)ですが、発見のきっかけは何ですか。
黒田:つくろうとして合成した訳ではなく、セレンディピティの1つですね。恩師が層状のケイ酸塩の研究をしておられたのですが、層間の陽イオンを他の陽イオンで置き換えて、さまざまな機能をもたせることができます。私はイオン交換ではなく、層間に有機物質を結合させよう(層間修飾)と思いました。
ところが、反応が起こらない。そこで、まず、イオン交換で、ナトリウムイオンをアルキルトリメチルアンモニウムイオン(界面活性剤)という有機イオンで置き換え、層の間を広げようと考えました。広がれば、有機修飾ができるだろうと…。そうしたところ、層状の柔らかいケイ酸塩だったため、界面活性剤を層が取り囲んで、三次元化が起こり、メソサイズの孔の開いた物質ができたのです。焼いてもメソポーラスの形が残りました。
メソポーラス構造をもつ新しい多孔質物質だと、すぐ分かりましたか。
黒田:それにも、いわくがあります。恩師が熱分析の専門家でもあったので、何かつくったら必ず加熱して熱的性質をみるという習慣が私たちにはありました。界面活性剤を入れた層状ケイ酸塩も焼いたのです。これをX線で見てみると、層間が広がったままで縮まっていない。普通は、焼くと有機物質がとんでしまい、元の間隔に戻るのです。最初は学生が実験を間違えたかと思ったほどですが、何度やっても同じでした。
ちょうど、日本のメーカーが固体用の高分解能核磁気共鳴装置をつくり始めていた時で、早大は導入予定でしたので、試料測定をお願いして、工場に行って測りました。すると、層状物質のピークだけでなく、三次元物質の位置にもピークがあったのです。さらに、入れる有機陽イオンのアルキル鎖の炭素数を変えると、孔の大きさが変わることがガス吸着の解析ではっきり分かった。「これは、大発見だ」と思いました。1988年に日本化学会の春年会で発表し、その年に英国化学会速報誌に投稿したのですが、普通2カ月以内に採否の結果がでるのに、半年くらい据え置かれて、結局、証拠不十分ということで却下されました。それで日本化学会の欧文誌に出して掲載されました。これが90年のことです。
反響はいかがでしたか。
黒田:博士や修士課程の学生たちが張り切って発表しても、ほとんど反響が無い。当初はその繰り返しの中で、私も不安になりました。一変したのは92年です。モービル社の研究者の投稿したメソポーラス物質の論文が、Natureと米国化学会誌に掲載されたのです。蜂の巣状に開いたメソポーラス構造の綺麗な写真付きで、90年の私たちの論文も引用されていましたが、ゼオライトの限界を打ち破る物質だと、注目を浴びたのです。
画:クロイワ カズ
今やメソポーラスは、無機物はもちろん、金属、炭素、有機物など百花繚乱ですが、応用についてどうお考えですか。
黒田:二酸化ケイ素(シリカ)のメソポーラス材料は、日本のメーカーによって大量生産の道が開かれ、価格も1kg当たり数千円とリーズナブルになりつつあります。応用としては、ゼオライトではできないことから進むと思います。ケイ酸塩のゼオライトはメソ孔より小さい2nm径以下の孔をもつ物質で、吸着材料や触媒材料として活躍しています。
例えば、錯体触媒を固定する担体として用いる場合、ゼオライトでは孔が小さすぎて錯体触媒を入れると埋まってしまい、活性が無くなるといったケースでも、メソポーラスなら大丈夫です。酵素や分子サイズの大きい薬も入れられ、化学反応やドラッグデリバリーの容器にもなります。
蜂の巣のような、あるいは織り上がったような独特の孔の形状を活かす、本来の用途があると思うのですが、それが何かは、まだ見つけられません。また、シリカは生体への安全性が高いので、メソポーラスシリカの医療応用はいろいろ考えられるでしょう。いずれにしろ、応用の展開はこれからは早いのではないかと、期待しているところです。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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