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光渦でナノ針の「林」をつくる

No.347/2010年11月号
千葉大学大学院融合科学研究科 情報科学専攻教授 尾松孝茂
千葉大学大学院融合科学研究科 情報科学専攻教授 
尾松 孝茂
特殊な光を使った研究をなさっていますが、どんな光なのですか。
尾松:伝播軸のまわりにらせん状に波面がねじれた光で、「光渦」とよばれています。伝播軸上では光波同士が打ち消しあって、強度がゼロになっています。イメージとしては、排水口に流れ込む水です。コリオリの力で渦を巻き、下水管壁に沿って回転しながら流れていき、その中心はドーナツのように穴があいている・・・。
光渦は、自然界には存在しません。光渦は1970年代頃から知られていました。1992年にAllenが軌道角運動量に関する研究を発表してから、注目を集めはじめ、研究が活発に行われるようになったのはここ10年くらいです。
私たちも、実際に光渦を作るレーザーシステムを開発しました。光渦の発生には、一般的には、コンピューターで画像処理して作ったホログラムを用いますが、私たちの研究室では、光ファイバーを使った独自の方法で光渦を作ります。
光渦を使って、どんなことができるのですか。
尾松:右巻きと左巻きの光渦を作ることができますが、これを金属や誘電体などの微粒子に照射すると、らせんの向きに合わせて微粒子が公転します。さらに、円偏光にした光渦を粒子に照射すると、偏光の向きに合わせて自転も行うようになります。これらを利用して、金属や誘電体などの微粒子を動かしたり、留めたりする「光マニピュレーション」が実現されています。
実は、今年の冬に、とても面白い利用法を見出しました。金属の表面に、らせんと円偏光の向きが一致した光渦を当てると、真ん中のドーナツの穴の部分に、細い針が一瞬にしてできるのです。60µm径の光渦を照射すると、300nm(0.3µm)径で、高さ11µmのナノ針ができました。
金属を動かしながら、光渦を照射すると、2次元アレイができてしまいます。原理的には、1秒間に50万本のナノ針の「林」を光渦の照射だけで作ることができます。しかも、ナノ針の太さも高さも非常に良く揃っています。
金属にレーザーを照射すると、金属が蒸散してプラズマができますが、そのプラズマが、光渦の真ん中の穴に毛細管現象のように吸い寄せられ、非常に高密度で充填されます。それが結晶化して、ナノ針ができるようです。
2次元ナノ針アレイは、いろいろなものに使えます。電界放出型ディスプレイ(FED)、走査型トンネル顕微鏡(STM)、原子間力顕微鏡(AFM)などの電極や探り針などですね。また、各針に薬を塗って押し当て、毛細血管に薬を注入していく無痛の剣山型注射器としても有望です。
針の太さや高さを変えられるのですか。
尾松:高さに関しては、光渦のパワーやパルス幅の調整を行い、さらにパルスを重ね打ちすることによって制御できます。太さに関しては、100nmまでは確実に細くできますし、おそらく50nmまでは大丈夫でしょう。
そこから先には高いハードルがあります。光渦を小さく絞らないといけないのですが、このとき光渦の持つ電磁場のベクトル性で実質的に真ん中の穴の効果が消えてしまう可能性があります。穴が極端に小さくなったときに、プラズマとの相互作用がどうなるかも、良く分かっていません。
画:クロイワ カズ
光科学技術の新しい領域が開かれつつあるのですね。
尾松:まさにそうです。光だけで物質の構造が制御できますが、それができるのは、軌道角運動量(光渦)やスピン角運動量(円偏光)といった、量子力学的な要素が光に入ってきたからです。これは科学として非常に興味深い。
同時に、応用の夢も広がります。雷もプラズマなので、光渦レーザーを使って雷を誘導できるようになるかも知れません。そうなれば、都市のゲリラ豪雨に対する強力な武器になるでしょう。どんな面白い現象や、応用がみつかるか、今後が楽しみです。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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