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有機エレクトロニクスの膜で地球を覆う

No.348/2011年2月号
東京大学工学研究科電気工学専攻教授 染谷隆夫
東京大学工学研究科電気工学専攻教授 
染谷 隆夫
軽くて折り曲げが自在な有機ELディスプレイなど、有機材料によるフレキシブルエレクトロニクスが注目されていますが、その眼目は何でしょうか。
染谷:大きな面に展開することができ、面積が増えれば増えるほど、単位面積当たりの価格が安くなることだと、私は考えています。シリコン中心の従来の固いエレクトロニクスは、いかに高密度にトランジスタを詰め込むかが中心でしたので、発想の転換が必要です。私もある時これに気がついたのですが・・・。
いつ、どんな時に気がつかれたのですか。
染谷:もともと量子細線などのナノ構造の研究をしていましたが、2001年に米国ベル研究所に行き、そこで有機エレクトロニクスに出合いました。ベル研には科学のフロンティアを切り開くという雰囲気があり、従来のエレクトロニクスの「微細化・高密度化・高速化」という軸とは違う、「新しいエレクトロニクスとは何か」という研究が進んでいました。そこで、私も有機エレクトロニクスでこれに挑戦しようと思ったのです。
帰国後、有機の柔らかさに興味をもったシリコン半導体の権威である東大の教授との議論の中で、「大面積」が有機エレクトロニクスの要だと確信しました。
有機エレクトロニクスは、プラスチックシートの上に導電性高分子材料を塗ってトランジスタなどのデバイス構造をつくりますが、この時に印刷技術を使うことができます。だから、1個当たりのトランジスタが安くなると、従来いわれていたのですが、これは間違っていました。計算してみると、微細化、高密度化に長い歴史をもつシリコントランジスタに、1個当たりの価格では歯が立たない。
しかし、印刷でできるので、面積はいくらでも大きくできます。すると単位面積当たりの価格も下がります。シリコンと競争するのではなく、まったく新しい分野を開拓するのが大事だと思いました。
どんな分野ですか。
染谷:柔らかさ、しなやかさを活かして、いろいろなものを覆っていこうと考えたのです。まず示したのが、ロボットを、圧力センサーや温度センサーの機能をもつ有機エレクトロニクスの皮膚で覆うことです。ASIMOのようなロボットでも、指先に数個のセンサーが付いているだけです。ロボットが生活に入ってくるには、それこそデリケートな皮膚感覚が無いと、介護などの役に立たないし、危険でもあります。
2004年にIEEE(米国電気・電子工学会)の国際会議で、この電子人工皮膚について研究発表を行い、賞をいただきました。そして、2005年にinvention of the yearの1つとして、電子人工皮膚のロボットハンドが、タイム誌の表紙を飾りました。
画:クロイワ カズ
その後、どのように研究を進めて来られたのですか。
染谷:実際に使われるためには、信頼性・安定性が重要ですから、私たちもこれには力を入れました。現在では、放っておいても2年くらいは十分もちます。
また、ロボットのような動くものを覆うには、単に柔らかくしなやかなだけでなく、伸び縮みするものでなくてはならないということが明らかになりました。関節部分などですね。そこで、伸び縮みする有機ELディスプレイも開発しました。
有機エレクトロニクスは、私たちの生活をどのように変えていくのでしょうか。
染谷:有機エレクトロニクスで、平面はもちろんのこと、曲面も、動くものもすべて覆うことができます。覆うとそれはセンサーにもなり、ネットワークの入出力装置にもなり、アクチュエーターにもなります。リアルな空間とサイバースペースとの関係が、今とは大きく変わるでしょう。
ただ、技術がどう使われるかは、研究者や技術者の想像を超えるところがあります。人間にとって使いやすいもの、人間に優しい環境を提供するものであって欲しいと思っています。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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