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日本の科学技術の今後

No.351/2011年12月号
(独)科学技術振興機構(JST)前理事長 北澤 宏一
(独)科学技術振興機構(JST)前理事長 
北澤 宏一
東大教授から2002年に特殊法人科学技術振興事業団(現在のJST)専務理事に転任され、2007年から本年9月末までJST理事長を務められました。ご自身の意識として、大学の時と大きく変わったのはどんな点でしたか。
北澤:JSTに来てからは、「なぜ、国は科学技術を推進していかねばならないのか?」ということを、常に考えるようになりました。どの国も科学技術を振興する理由の1つは、国土と国民の安全保障の観点から、もう1つは経済成長です。いわば、平和な国を築き、皆が豊かに暮らせるために、科学技術水準を高めておくということです。ところが、今日の日本は、すでにこれらの目的を実現し、物質的な豊かさのさらに先の豊かさを求める時代となりました。
どのような目的が考えられますか。
北澤:20世紀後半の大量生産大量消費時代への反省が、欧州や日本を始めとして地球環境への取り組みを促しています。私は、世界が「地球環境イデオロギー時代」に突入したと考えています。そこで、この数年は、地球環境イデオロギー時代に向けた日本の科学技術推進体制を強く意識して、仕事を進めてきました。
20世紀後半までは、科学技術が人類全体を豊かにするという公式が成り立っていました。しかし、現在では、科学技術の成果そのものがもたらす帰結の予測も科学技術の範疇に含めねばなりません。人類が持続可能な発展を存続させていくためには、協調が不可欠です。人間の歴史を見ると、これがなかなか難しい。しかしながら、地球環境イデオロギー時代には各国間の外交交渉も持続性の観点からその論理を厳しく問われるようになり、科学技術の関わり方にも大きな変化が生じてきます。
3・11の東日本大震災も、日本の科学技術のあり方に大きな影響を与えたのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
北澤:ずいぶん前から私たちは、地球という惑星は有限で、資源も無尽蔵ではなく、生産も消費も無制限には行えないことに気がついていました。しかし、差し迫った問題とは捉えていなかった…。それが、原子力などエネルギー問題をはじめ、一気に現実味を帯びた感がしますね。
エネルギー問題については、日本学術会議の「東日本大震災対策委員会 エネルギー政策の選択肢分科会」の委員長として、『エネルギー政策の選択肢に係る調査報告書』をまとめ、電力供給源に係る6つの選択シナリオを提示しました。これが今後の選択の礎になればと思っています。
(ご参照 日本学術会議( http://www.scj.go.jp/))
中国や韓国などの研究面での追い上げも取り沙汰されますが、日本の科学技術のレベルをどうお考えですか。
北澤:非常に高いと思います。例えば、9月21日に大野英男東北大教授への「トムソン・ロイター引用栄誉賞」授与が発表されました。過去20年以上の学術論文被引用数に基づき、論文の被引用数の多いものの中から特に注目すべき分野のリーダーと目される研究者が選ばれます。ノーベル賞との相関も非常に高いといわれています。審良静男阪大教授、北川進京大教授、山中伸弥京大教授も同賞を受けています。
このように、日本の研究者は基礎科学のフロンティアを自らの手で切り拓いているのです。私たちまでの時代は欧米人が切り拓いた大陸を、先を競っていち早く探検することに意義を感じていましたが、今や立ち位置が違います。近年日本全体が、少し縮こまっているようですが、基礎力もあり、世界最大の海外資産などの余裕もあるのですから、もっと自信をもって進んでいくべきです。
画:クロイワ カズ

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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