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メタマテリアルが拓いた光学の新世界

No.353/2012年5月号
理化学研究所・基幹研究所 准主任研究員 田中 拓男
理化学研究所・基幹研究所
准主任研究員 
田中 拓男
メタマテリアルの研究をなさっていますが、どのような材料なのでしょうか。
田中:メタマテリアルには、まだ正式な定義がありませんが、私たちは、電磁波に対して、自然の物質の限界を超えるような特異的な性質をもたせるように設計した人工物質と捉えています。私たちが対象としているのは光の領域での特性で、微小な構造をつくり込むことによって、これを実現しようとしています。
そもそも、光学顕微鏡の技術をベースに微細加工などの研究を行っていた私がメタマテリアルに目を向けたのは、「負の屈折率をもつ物質をつくれれば、『パーフェクトレンズ』を作製でき、無限に小さいものを光で見ることができる」という、ロンドン大学のジョン・ペンドリー教授たちの2000年の論文によります。光学顕微鏡屋としては、不可能とされていた、光の波長以下のモノを観察できるというのですから、ほっておくわけにはいきません。
しかし、自然界には負の屈折率をもつ物質は存在しません。物質の屈折率(n)は比誘電率(ε)と比透磁率(μ)から決まります 。εは物質と光の電場がどう相互作用するか、μは磁場との相互作用を表しています。不思議なことに自然界には光の磁場と相互作用できる物質は無く、μはすべて1です。ですから屈折率の値は負にはなりません。屈折率を負にするためには、εもμも負にしなければなりません。
そんなことができるのですか?
田中:メタマテリアルをうまく設計してやればできます。2005年に、銀でナノのスケールのコイルをつくり、それをある配置で3次元空間に並べれば、可視光領域において負の屈折率をもつメタマテリアルをつくれることを理論的に示しました。また、2006年にはμを1より大きくするようにナノスケールのコイルを並べることによって、まったく光を反射しないメタマテリアルをつくれることも明らかにしました。
画:クロイワ カズ
次には実際につくること、「マテリアルにすること」が重要になってきますね。
田中:まさにその通りです。いかにして、3次元空間にナノスケールの構造を自在につくっていくか、今、その技術開発に力を入れています。従来の微細加工技術は、半導体に代表されるように、2次元的につくり込む技術が主流で、3次元的に自在に微細構造をつくる技術はありませんでした。
今、私たちは、光で金属構造をつくる技術を研究しています。金イオンや銀イオンに紫外光を当てると、光を吸収して金属に戻り、金属のパターンを作ることができます。しかし、レンズで光を奥行き方向の1点に絞っても、光は集光点の手前にも奥にも照射されるので、金属が析出して欲しくないところも、イオンが金属に変わってしまいます。そこで私たちは、紫外線よりずっとエネルギーの低い赤外線を使う方法を考え出しました。
近赤外線のレーザーを使う方法です。普通の環境では、金や銀のイオンは光子を1個しか吸収しないので、近赤外線の光では何も起こらず、紫外線の光子が必要です。しかし、光子密度が非常に高くなると、2つの光子を同時に吸収する2光子吸収という現象も起こるようになります。近赤外線の光子2つには、紫外線の光子1個程度のエネルギーがあるので、近赤外線のフェムト秒レーザーを強力に絞ると、その集光点ではあたかも紫外線を照射したのと同じになって、金属が析出します。一方、焦点以外では光子密度が低いので、1光子吸収しか起きず、金属には戻りません。
銀をイオン化して水や樹脂の中に分散したものが奥行きもある3次元のキャンバスで、絞り込んだレーザースポットは光の鉛筆です。金属イオンのキャンバスの中で、光の鉛筆を使って、ナノスケールの立体的な金属を描くことができます。
現在のところ、可視光用のメタマテリアルはまだ無理ですが、近赤外線に対しては、今までに無い特性をもつメタマテリアルの作製が可能です。
メタマテリアルの登場は、光学を大きく変えています。どんなことが可能で、何がつくれるか、理論と製作の両輪で光学のこの新世界を探っていきたいと思っています。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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