MENU

SACLAとSPring-8を操りナノの世界を究める

日経サイエンス創刊500号記念特別インタビュー

No.356/2013年2月号
理化学研究所 播磨研究所 所長 放射光科学総合研究センター センター長 石川 哲也
理化学研究所 播磨研究所 所長
放射光科学総合研究センター センター長 
石川 哲也

SPring-8とSACLAの個性

SACLA(さくら)の共同利用が2011年3月に開始され、理化学研究所の播磨研究所には、放射光源SPring-8とX線自由電子レーザーSACLAという世界一級の光が揃い踏みしましたね。
SACLAとSPring-8
石川:両方ともX線を出す装置で、ナノの世界を見るのには、非常に適しています。SPring-8のほうは、世界最高のエネルギーと世界有数の輝度を持つ光源です。SACLAは、0.10ナノメートル(1オングストローム)以下という世界で最も短い波長のレーザー光を発振できます。
同じX線といっても、その性質はかなり違います。SPring-8のX線は強いには強いが、SACLAに比べればずっとマイルドです。当て続けても試料は壊れません。ですから、動きのない静かなナノの世界を見通すことに長けています。
一方、SACLAは非常に短い時間(パルス幅)に非常に強いX線を出します。輝度はSPring-8の10億倍という強さです。当てると試料は壊れてしまいますが、壊れる速さよりもX線の散乱過程のほうが速いので、壊れる直前の姿を見ることができます。モノが動き回っているダイナミックなナノの世界の一瞬を切り取ることができるのです。ナノという極微の世界で起こる非常に速い現象の一瞬を、ストロボ写真のように撮れるわけです。
ストロボ写真を繋げて、動きや現象の一連の過程を見るには、同じ試料をたくさん用意して、次々にX線を当てていかねばなりません。現在、私たちは、大学の数学の研究者と一緒に、順番がバラバラのストロボ写真をどう繋げていけば一連の過程がムービーとして再現できるのか、という研究を行っており、ソフトとして提供しようとしています。
SPring-8とSACLAとを連携させていけば、今までまったく知らなかったナノ世界を明らかにすることができるでしょう。

SACLAが描くナノ世界のダイナミクス

SACLAの場合、どのような現象をムービーにしようとしているのですか。
石川:多くの研究者がターゲットとしているのが「触媒反応」です。触媒は、特定の化学反応の速度を速めますが、反応の前後で自身は変わらない。今までの観測手法では触媒反応の途中の段階が見えないので、実際に触媒が何をしているのかが分からない。そのため「自分自身は何もしないが・・・」と表現されることも間々ありました。しかし、何もしないということはあり得ません。非常に短い時間の間に何が起こっているのか、SACLAを使えば突き止めることができるでしょう。
何が起こっているのかが分かれば、反応の方向や量などをコントロールすることができるようになります。やがては、高効率の触媒や、新たな反応を進める触媒などの自在な設計が可能になるでしょう。
工学の例では、SACLAを使って「ものはどのようにして壊れていくのか」を解析するというテーマも考えられます。これが分かれば、効率的に壊れる、あるいは製品として一部が先に壊れるのではなく、全体としてある時期に壊れるなど、壊れることをもプログラムした新しいものづくりの体系ができるかもしれません。
ものづくりとなると、アカデミアだけでなく、産業界の利用も大いに考えていらっしゃるのでしょうか。
石川:その通りです。SPring-8もSACLAも利用テーマを公募し、第三者の有識者からなる選定機関によって選んでいますが、SPring-8では、すでに全採択課題の約2割が産業界からの応募です。
企業が利用する場合には、2つのケースがあります。観測結果をオープンにする場合には使用料はいりませんが、結果を自分たちだけに留めたいときには、時間当たりの使用料を取ります。

SACLAでも、産業界の興味を引きそうなテーマはすでにいろいろあります。抗体医薬の開発などで、製薬会社はタンパク質の形について非常に興味をもっています。SPring-8でタンパク質の形を見てきましたが、X線をある程度の時間当て続けるので、放射性損傷を受けて形が変わっている可能性があります。SACLAでは壊れる前の一瞬の姿、放射性損傷のない形を見ることができます。
また、YAGレーザーなどを材料に当てて性質を変える、レーザー改質というものがあり、原子炉材料の強化などに応用されています。レーザーを材料表面に当てると溶けて固まりますが、その時に原子レベルでどのようなことが起こっているかを、SACLAを使って見ることができれば、材料メーカーは、新しい材料開発の手法を確立できるのではないか、と思います。

デスクトップSACLAを目指して

SACLAの全長は700mですが、小型化をはかったと謳われています。これはどういう意味合いでしょうか。
石川:小型化の第一歩を踏み出したということですね。X線自由電子レーザーには、SACLAのほかに、2009年から稼働している米国カリフォルニアのLCLS、2015年に稼働が予定されている独国ハンブルクの欧州X線自由電子レーザーがあります。前者は全長2,000m、後者は3,400mで、これに比べるとSACLAは小型です。
性能についていえば、SACLAは、照準を合わせ、機関銃を撃つようにX線を試料にぶつけます。一方、LCLSは、爆弾を投げつけるようにX線を試料に浴びせます。2011年1月に、アルミニウムに照射して太陽コロナより高い200万度という温度を生成しています。このように、両者は性能も応用領域もまったく異なっています。
X線自由電子レーザーが力を発揮する研究領域は非常に幅広いのです。ですから、もし小型化がはかれて、研究機関や工場などいろいろな所に入っていければ、きっと物質科学を大きく変えるだろうという強い思いが当初からありました。そこで、ダウンサイジングを目指したのです。
コンパクトにしながら、性能を引き出していくには、さまざまな知識と知恵と技がいります。参加したメーカーは500社に上り、日本のものづくり力を結集しました。予算的にエンジニアリングの費用がなかったので、私たちが直接束ねることになり、500社の方々と共にSACLAを誕生させたという思いが強くありますね。
画:クロイワ カズ
生み落とした卵を今後どのように育てていこうとお考えですか。
石川:装置としてさらにコンパクトなものにしていく、というのが1つの方向でしょう。1/5、1/10にしていく・・・。そうして、どの研究機関にもごく当たり前に置かれるものにする。現在の電子顕微鏡のような存在ですね。その先には、デスクトップ型PCのようなものもあるかもしれません。
利用の仕方としては、私自身はSACLAがマテリアル・オープン・イノベーションの1つのプラットフォームになればいいな、という思いを抱いています。例えば、ある業界に共通するような問題については、SACLAを使って産官学が力を合わせて克服し、各企業固有の問題は互いに競争しながら解決していくといったことですね。日本株式会社の再来だと考える方もいらっしゃると思いますが、熾烈なグローバル競争の中での1つの方法ではないでしょうか。
小型化が進み、いろいろな研究機関に行き渡れば、マテリアル・オープン・イノベーションはまた違ったフェイズになるでしょう。大勢の人がX線自由電子レーザーを使ってさまざまな知見を大量にもつようになります。それらを合わせれば、どのようなことができるのか、想像もつきません。
いずれにしろ、装置自体の開発についても、その利用についても、まったく新しい分野なので先輩がいない。若い人たちが存分に力を発揮でき、頑張れば若いうちに第一人者になれるので、働き甲斐があります。事実、若い研究者から、次々と面白い意見が出てきます。彼らがこの分野の未来をつくっていくのだと十二分に実感できることを、誠に幸せなことだと思っています。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


この頁についてのお問い合わせは下記まで