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福島の土壌汚染

No.360/2014年2月号
東京大学大学院農学生命科学研究科 中西 友子
東京大学大学院農学生命科学研究科 
中西 友子
東大農学部では福島第一原発事故直後から、被災現場での放射能汚染の調査研究を進めてきたそうですね。
中西:福島の現場で農学の立場から役に立つ研究をしようと、教員4、50人が手弁当で始めました。最初は学生を連れていくと危ないかもしれないからと、教員だけで調査しました。そして、3、4カ月ごとに得られた結果を一般の方々に説明する会を開いてきたのです。この12月で8回目になります。
2年余り経ちますが、汚染の状況はどう変化してきたのでしょうか。
中西:まず、農業で最も重要な土壌についてお話したいと思います。事故当時は3月の寒い季節だったので、田畑には殆ど作物が育っていませんでした。そのため、降ってきた放射性物質の大部分は土壌の表面に付着しました。福島の事故の場合、ストロンチウムが少なかったので、付着で問題になるのはセシウムです。正確にいえば、土壌表面には凹凸がありますが、セシウムは凹凸面の表面にだけ付いたのです。しかも一様に付くのではなく、ポツポツとスポット的に付くことが分かりました。そこで、どんなところに付くのかを調べてみました。
土壌は、非常に細かい粘土、もう少し大きな砂、もっと大きい礫、そして植物の成分などからなる有機物などからできていますが、セシウムは細かい粘土部分と有機物にしっかりくっついていることが分かりました。そして、その後の調査で、殆ど動かないことが明らかになりました。
それなら、土壌の表面をはぎ取って除染すればよいのですか。
中西:農業を営んでいる人たちにとっては、話はそんなに簡単ではありません。厚さ1センチの土壌ができるのに100年から200年かかるといわれています。はぎ取るのは、農家にとっては死活問題です。
どうすればよいのでしょうか。
中西:私たちは、現地の方々との交流に力を入れてきました。そんな中で、田畑に水を入れて撹拌すると、セシウムの付いた細かい粘土や有機物が舞い上がり、その水を取り除くと殆ど放射線が検出されなくなるという実験結果が出ました。これをもとに現地の方から、それなら田畑の横に側溝をつくり、田畑の洗浄後は、水をそこに流し込んでみたらどうか、という意見が出てきたのです。実際にやってみたところ、側溝の放射線量は高くなりますが、セシウムは側溝の表面にしっかりくっつくことが分かりました。太陽電池で駆動する放射線モニターで、側溝を監視していれば大丈夫です。
田畑に植えられていたものは、どんな状況だったのでしょうか。
中西:事故から2カ月経った時にムギの葉と茎を調べましたが、事故当時に出ていた葉にはセシウムがポツポツとスポット状に付いていました。一方、事故後に出た葉には殆ど付いていませんでした。セシウムが最初に付いた葉から植物体の中を移動することは殆どないようです。同様なことが、モモなどの果樹でも確かめられています。そして2012年になると、コメ・ムギからも、野菜・果物からも放射線は検出されませんでした。
画:クロイワ カズ
山など田畑の周りに降ったセシウムの影響は、どう捉えられるのでしょう。
中西:山に降ったセシウムは、木の葉や降り積もった落ち葉や土壌に付着しました。当初は雨によって、また落ち葉が分解されていく過程でセシウムが動くのではないかと心配されました。しかし、実際には落ち葉が分解されると下に広がる土壌がしっかり受け止め、セシウムは殆ど動かないことが分かりました。
水を入れて田畑の表土を洗ったところでは、農産物はほぼ安全だと考えてよいわけですね。
中西:セシウムは、瞬間接着剤の付いた花粉のようなもので、いったん付くと殆ど動かないことが明らかになってきたわけです。この科学的知見をもとにして、適切な対処法をとることがたいへん重要です。除染には膨大な費用もかかります。科学的知見に基づく見極めが、復興の土台となると思っています。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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