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手で操るナノテク

No.364/2015年2月号
物質・材料研究機構 WPI センター国際ナノアーキテクトニクス 研究拠点主任研究者 超分子グループ ディレクター 有賀 克彦
物質・材料研究機構
WPI センター国際ナノアーキテクトニクス
研究拠点主任研究者 超分子グループ ディレクター 
有賀 克彦
「手で操るナノテク」という新しい概念を打ち出されていますが、どういうことなのでしょうか。
有賀:長年、「超分子」の研究を行ってきましたが、超分子というのは多数の分子が集まることによって、いろいろな機能をもつようになるという分子の機能集団を指します。分子どうしは弱い相互作用で結ばれているので、非常にフレキシブルです。
上手く条件をコントロールすれば、分子一層からなる超分子膜、2次元物質をつくることができます。例えば、分子の疎水基と親水基を上手く配列すれば、水の上に1分子膜を簡単につくることができます。石鹸膜のようなものですが、これを石鹸ではなく分子マシンとしての機能をもつものを並べてやるのです。
そういうバルクの膜を手で押して分子マシンの構造を変えて特定の分子を捉まえる、また緩めて分子マシンの構造を元に戻して捉まえたものを放す、といったことを行うのが、「手で操るナノテク」です。3次元物質を対象に、このようなことを行うのはなかなか難しいのですが、2次元に落とせばうんと易しくなります。
このような方法を使って、例えば、アミノ酸のL体とD体を、膜を押したり、緩めたりすることで選択捕捉したりすることなどが考えられますね。そういうことが、今、実現しつつあるのです。
ナノ構造を手で扱おうというのは、ずいぶん大胆な発想だと思いますが、何か特別なきっかけがあったのでしょうか。
有賀:我ながら大胆だと思います。その発端は、東京工業大学の細野秀雄博士のお話を聞いたことにあります。細野博士は、鉄系超電導物質の発見で有名ですが、鉄の酸化物というごくありふれた物質を使って、特殊な材料だけがもつと考えられていた性質を引き出したことが重要で、「誰でも使える材料」という視点は、地球資源の有効利用の上で欠かせないといわれました。
私も、長年、ナノテクの分野の研究を行ってきて、現在のナノテクは精密な技術や装置を使ってサイエンスとしては素晴らしいところまできているが、一般に使われるようになるにはもっとブレークダウンして、易しく扱えるようにならねばならないと思っていました。いかにして易しい方法で精緻なことができるかということですね。
また、ナノ構造という極微の世界と材料という大きな世界をいかにつなぐかも、これから重要になってきます。現在は、ナノ構造の積み重ねで大きな世界につながると考える研究者が多い。ボトムアップですね。そこで、反対にトップダウンでつなぐ方法がないか、と考えたのです。
そうして、出てきたのが「ナノテクを手で操作できないか」ということでした。そして、よく考えてみて「できるのではないか」という結論に至ったので、研究テーマに掲げ、実践することにしたのです。
画:クロイワ カズ
思い切りよく、始められたのですね。
有賀:そもそも1つのことを突き詰めるタイプの研究者ではありませんね。ある程度分かったらそれを究めるのではなく、次には新しい発想・考えでやっていきたいと思います。
でも、手で操るナノテクを学問的に認めてもらうのは大変で、最初は論文を却下されたりしました。とにかく、分かってもらうために、国内外を問わずいろいろなところで、一生懸命お話をしています。
科学技術・学術政策研究所の「ナイスステップな研究者」(2012年)や、トムソン・ロイターの「世界で影響力をもつ科学者2014年」にランクインされていますが。
有賀:最近はずいぶん風向きも変わったように思います。1分子膜は柔らかいものなので、生体との適合性がよく、医学分野での応用が進むのではないかと思います。例えば、花粉症の方が、「花粉が多いな」と思って鼻を押すと、その圧力で鼻に詰めた1分子膜の構造が変わり、薬がリリースされるといったものですね。誰でもどこでも使えるナノテクノロジーというものをつくれたら、と思っています。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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