MENU

人工知能は脳を超えられるか?

No.365/2015年5月号
理化学研究所 脳科学総合研究センター 脳数理研究チーム 特別顧問 甘利 俊一
理化学研究所 脳科学総合研究センター
脳数理研究チーム 特別顧問 
甘利 俊一
数理科学・工学がご専門ですが、なぜ、脳の研究をしようと思われたのですか?
甘利:人間の脳はすごく上手く働いているが、その秘密は何か?脳のしくみを数学的な視点で解き明かしてみたいと思ったからです。人口知能(AI)研究の一端ですね。
AIの現状は、どうなっているのでしょうか?
甘利:「ディープ・ラーニング」という最新のニューラルネットワークが一世を風靡しています。
私が脳研究を始めたのは半世紀も前のことですが、この間、ニューラルネットワークの研究にも栄枯盛衰がありました。脳の神経回路網のしくみを数学的にモデル化したものですが、その最初は1958年に発表された「パーセプトロン」です。非常に単純な構造で、入力層、中間層、出力層という3層構造でした。出力層が学習能力をもつシステムとして、第1次ニューラルネットワーク・ブームを起こしましたが、1960年代の終わりに原理的な限界があることが分かり、しぼみました。
そして、1980年代に、新たに隠れ層という層が加わってここでも学習するニューラルネットワークが登場し、第2次ブームを巻き起こしました。しかし、これも複雑な現実問題を解こうとすると、どんどん素子の数を増やさねばならず、計算時間が膨大にかかるという矛盾に陥り、90年代にはブームが終わりました。
そして2000年代半ば頃から、10層などという多層でありながらも、自己組織学習を行うディープ・ラーニングが登場してきて、パターン認識、音声認識、ドキュメント解析などの分野で、素晴らしい成果を上げています。音声認識や手書き文字認識などでは、人間を超えつつあります。
多層でより精密になり、かつ処理時間も速いという秘密は何ですか。
甘利:従来のように膨大なデータと正解を与えて学習させていくのではなく、まず、与えられた生のデータからより抽象的な概念を抽出する自己組織学習を取り入れたことです。層が進むごとに概念は高次元になっていきます。例えば、最初の層では単なる点の集まりだったのが、次の層では線、その次の層では面、そして最後には何か物の形となるといった具合ですね。ただ、本当のところ、各層の中で実際に何が起こっているのかはよく分かっていない。これを解き明かすのが数理の役割だと思っています。
AIは、やがては人間の脳を超えるようになるのでしょうか。
甘利:手書き文字認識のように特定の分野、状況下などでは超えつつあります。でも、これは本質的にはコンピューターの計算能力が人間よりはるかに高いというレベルと同じです。人間は、さまざまな問題を総合的かつ主体的に判断しています。そこには意識の問題などが複雑に絡んでくるので、何ともいえませんね。
国立情報学研究所を中心に、東大に受かる「東ロボ君」を2011年から開発していますが、センター試験の偏差値が50を超えたといいます。ディープ・ラーニングをはじめ、AIのいろいろな手法を活用して試験突破をはかっていますから、その成果もAIの行方を占う1つでしょう。
脳は進化の袋小路に入ると、新しい道を偶然を頼りに探し出し、取り入れていった。古いものも捨てないので、その設計思想は美しくありません。数理工学的に脳を解き明かせれば、まったく新しい発想の脳やAIを開発できるかもしれません。
画:クロイワ カズ

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


この頁についてのお問い合わせは下記まで