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外科医の「目・脳・手」をつくる

No.366/2015年8月号
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 教授 村垣 善浩
東京女子医科大学
先端生命医科学研究所 教授 
村垣 善浩
先生の担当する先端工学外科学というのはどのような学問分野なのでしょうか。
村垣:外科医の「新しい目と脳と手をつくる」ことを目指すものです。「目」というのは、手術に必要な生体データをすべて採取して可視化すること、「脳」は可視化したデータを自動的に解析して判断の基となる情報をつくること、「手」は「目」と「脳」の連携ナビゲーションに基づいて自動的に治療する機器、手術ロボットをつくることです。
研究室には、医学系だけでなく工学系の出身者も多く、ここでの研究によって医学博士号を取っていきます。医療機器メーカーからもいろいろな人が来ており、医工連携ならぬ医工融合になっています。
どのようなものを開発されてきましたか。
村垣:開発の横糸が外科医の目・脳・手だとすれば、縦糸は悪性腫瘍の治療です。私は脳神経外科医なので、脳腫瘍の手術関連のものから手がけました。手術の最中にリアルタイムで撮れる術中MRIをメーカーと一緒に実現し、脳腫瘍の位置を正確につかめるようになりました。その結果、摘出率が上がり、良好な5年生存率を得ました。また、光線力学的療法という新規療法を脳腫瘍に適用するシステムも開発しました。腫瘍に蓄積する性質をもつ光感受性物質を患者さんに投与した後にレーザー光を照射して、光化学反応で生じる活性酸素で腫瘍細胞を殺すというのがその原理です。これは医師主導で薬事承認されています。
脳の手術に限らず、手術システムの1つのアセンブリーとして開発しているのが手台です。外科医は長い手術時間中に常に手を持ち上げているので、使わない時は安全に休めておきたい。ちょっと荷重をかけるとカチッと留まって手を支え、荷重をはずすと即座に手を動かせるようになるものをメーカーと一緒につくっています。
また、集束超音波という新しい治療法として期待されているものがありますが、この装置の開発にも力を入れています。この装置では、エネルギーの集中度をコントロールすることによって、腫瘍を死滅させることもできるし、脳関門を緩めることもできます。脳関門は脳内に余計な物質が入り込むのを防ぐ機構ですが、一時的に緩めて大きなサイズの薬を通して脳に作用させることもできます。集束超音波装置は小型で、体の深部にも超音波を届かせることができるし、さまざまな使い方ができます。治験を計画していますが、今後、実用化されることが楽しみですね。
そして、今、私たちが提唱しているのが、目と脳と手を連動させた手術システム、手術室自体が1つのシステムとなる「SCOT」(Smart Cyber Operating Theater)です。
この手術室では、すべての機器、装置がネットワーク化されます。そして、採取されたデータのすべてが可視化され、さらにデータのもつ意味が自動的に示され、その上で手となるロボットがデータと情報に基づいて手術を行うといったイメージです。かなりの部分が実現されており、例えば研究室にいてもモニターを通じて、データや情報など手術の状況を的確につかむことができ、あたかもコントロールセンターからスペースステーションの宇宙飛行士にアドバイスを送るように、術中の医師に助言することができます。
そのようなシステムは私たちに何をもたらすのでしょうか。
村垣:安全で効果的な手術を再現性高く受けることができるようになります。SCOTがどんな手術においても成功確率の高い手術を間違いなく実現するわけです。医師の立場からみれば、執刀医だけでなく手術に立ち会うすべての医師がデータや情報を共有するので、一人前になるのが早くなります。
また、医療費の面では、一時的には高くなるかもしれませんが、安全で効果的な手術の確実な実現は、合併症が起きたり、麻痺が残ったり、再手術をしたりするケースが減少し、結果として社会の負担を減らすと思います。それにシステムは、普及するほど安くなるので、長い目でみれば、まったく問題ないでしょう。
画:クロイワ カズ

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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