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オミックスを医療の現場に生かす

No.367/2015年11月号
理化学研究所 予防医療・診断技術開発プログラム プログラムディレクター 林﨑 良英
理化学研究所
予防医療・診断技術開発プログラム
プログラムディレクター 
林﨑 良英
 
RNA研究でゲノム科学の新領域を拓かれ、さらに生体内の分子を網羅的に調べるオミックスに研究を進められ、今また新たな挑戦を始められたと伺いましたが…。
林﨑:目指しているのは、蓄積してきたデータや手法を、実際に医療の現場に生かすことで、2013年に「予防医療・診断技術開発プログラム」に着手しました。そもそも医学部出身で臨床医になろうと思っていたので、古巣に戻るといった感じですね。
臨床医ではなく、基礎研究に身を投じられた特別な理由があるのですか。
林﨑:手塚治虫の「ブラック・ジャック」にあこがれて医者になろうと思ったのですが、大阪大学の医学部生だったときに、クレチン病の新生児スクリーニングに引っかかる例が身近にあったのです。甲状腺ホルモンを投与すれば正常に発育しますが、気がつかないと脳に発達障害を生じます。スクリーニングでは甲状腺刺激ホルモンの量を調べますが、微量なホルモンを検出できるようになったのは、放射性免疫測定という技術が確立されたからです。
臨床医は、患者さん一人一人を助けようとしますが、予兆となる物質、原因となる物質を見出せれば、一度に大勢の人を助けることができるので、「これはすごい」と思ったのがきっかけですね。そこで、松原謙一先生の研究室に入り、DNA研究に携わるようになりました。
DNA研究からRNA研究に移られたきっかけは何ですか。
林﨑:戦略的な理由です。1995年に理研に着任しましたが、その年に米国NIHが「あと8年でヒトゲノムの全塩基配列を読むプロジェクトを完了させる」と宣言したのです。予算も膨大で、私たちが太刀打ちできるものではない。そこで、ヒトゲノムが分かった時に相補的な役割を果たすものをやろうと、RNAの解析を行うことにしました。
細胞から抽出したRNAを鋳型にして、逆転写酵素によってDNA(cDNA)をつくり、その機能を調べていきます。研究体制も、私たちのグループだけでなく、20カ国114の研究機関が参加する国際研究コンソーシアム「FANTOM」をつくり、大部隊で進めました。
すると、タンパク質の情報をコードしていない、いろいろな種類のRNAが見つかったのです。これらノンコーディングRNAは、特定のタンパク質に結合して核の中に誘導するなど、いろいろな機能を担っていることが、次々に明らかにされ、「RNA新大陸の発見」ともいわれるようになりました。
DNAの70%以上がRNAとして読み取られることも分かったのですが、どこが読み取られるかは細胞の種類によって違ってきます。それをコントロールしているのが、転写因子というタンパク質で、これがDNAに付くと、読み取りが開始されます。
転写因子にもさまざまな種類があり、細胞内でネットワークをつくって、互いに制御しあっています。このネットワークの構造が、肝臓の細胞か皮膚の細胞など、細胞の種類を決めていることが分かってきました。そこで、ネットワーク構造の地図を描こうと、オミックスに駒を進めたのです。
オミックスでは、分子を網羅的に調べて、それらの分子がつくるネットワークを解析し、分子ネットワークの集合体である生命システムを明らかにしようとしています。
そのような研究成果を、どのように医療の現場に生かそうとしているのですか。
林﨑:再生医療に関しては、いろいろなアプローチが考えられると思います。ES細胞は、転写因子のネットワーク構造によって、どんな細胞にもなり得るという万能性を獲得しています。iPS細胞では、人為的に4つの遺伝子を入れることで、万能性を生じる転写因子のネットワークをつくり出しています。ですから、再生医療で得たいと思う細胞や組織をつくるには、ネットワーク構造をどう変化させるかが鍵で、オミックスの研究成果が大いに役立つでしょう。
また、細胞のがん化やがんの性質なども転写因子をはじめ、分子のネットワークが決めているので、がんの診断・治療にも新しい道を拓くと思っています。
画:クロイワ カズ

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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