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人機一体で行動の自在化をはかる

No.369/2016年5月号
東京大学大学院情報理工学系研究科 システム情報工学専攻 教授 稲見 昌彦
東京大学大学院情報理工学系研究科
システム情報工学専攻 教授 
稲見 昌彦
 
AR(Augmented Reality:拡張現実感)というコンピューターのつくるサイバー空間と現実の世界を重ねる、情報科学の先端的な研究をなさっていますが、そのきっかけは何なのでしょうか。
稲見:高校の時のゲームセンターでの体験です。コックピットのような物に乗り込み、コントローラーでF14戦闘機を操って敵を撃ち落としていく体感ゲームで、コックピットは飛行状態に合わせて回るし、目の前に広がる映像は美しいし、すごい臨場感を体験しました。
小学校からパソコンで遊んだり、プログラムを書いたりしていました。それまではコンピューターの世界はディスプレーを介した向こう側の世界だと思っていましたが、そこで「体験をもつくり出すことができる」と感激しました。
生物や化学にも興味があったので、学部・修士課程はバイオ関係を専攻し、ARは趣味としてサークルで友だちと一緒に開発していたのですが、バイオよりそっちのほうに適性がありそうだと、博士課程から今の分野に移りました。そして、元来生き物が好きだったこともあって、ARならぬAH(AugmentedHuman:人間拡張工学)、「身体を拡張する」という方向で、研究開発を進めています。
「身体を拡張する」というのはどういうことですか。
稲見:自分の身体の機能や世の中を観察する機能を高めたりして、「自分ができることを拡張する」ことを目指しています。
AH提唱のきっかけになったのは、博士論文の時に開発した「透明マント」です。このマントをはおると身体の後ろにある景色が透けて見えて、透明になったようになります。マントは再帰性反射材という光を入射方向に反射する素材でできています。マントをまとった人の後ろの風景をリアルタイムで撮影し、映像をコンピューターで補正してマントに映し出すという仕組みです。透明マントは非常に反響が大きく、米国の『タイム』誌の2003年の「最も優れた発明」にも選ばれました。この時、反響の大きさもさることながら、このマントは「人間が物を見通す能力を拡張したようなもの」と捉えることができると強く感じたのです。
産業革命は、人間の物を運んだりする能力を、その能力のより高い道具や機械で代替させたといえます。一方、AHでは、人間が従来もっていない能力を、人間の身体そのものが拡張したように感じて付与する、人馬一体ならぬ人機一体感が重要な点です。その時のキーワードが「自在化技術」だと考えています。
自在化というのはどういうことでしょうか。自動化と対立する概念ですか。
稲見:自動化も含んだ概念です。例えば人馬一体という時に、手綱によって自分の意思に沿って馬を動かすこともあるでしょうし、時代劇に出てくるように、ほろ酔い気分で乗っていると馬がいつのまにか家まで運んでくれることもある…。人間の身体だって、歩く時に常にどうやって足を動かすかを意識しているわけではありません。足をいわば無意識に自動的に動かしている。
人間の身体と道具や機械がシームレスにつながって、あたかも自分の身体のように自在に動かすことができる。その結果、人間が、現実空間の中で、今よりもより自在に行動できるようになるといった感じですね。
「超人スポーツ」も提唱しておられますが、これも自在化とつながるのですか。
稲見:自在化技術を競い合うイベントのようなもので、そこで培われた技術は日常生活にフィードバックするでしょう。
ある種の義足を着ければ、健常者より速く走れることがすでに起こっています。また、ブラインドサッカーを目隠しした健常者が行っても勝負になりませんが、健常者が視覚障害者と同様に音情報を扱える装置を付けてシームレスにつながれば、一緒にプレーできます。この技術は、日常生活では第3の目のように働き、人間の認識と行動のさらなる自在化をはかることでしょう。
画:クロイワ カズ

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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