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素粒子物理学の現状と見通し

No.372/2017年2月号
高エネルギー加速器研究機構 特別栄誉教授 小林 誠
高エネルギー加速器研究機構
特別栄誉教授 
小林 誠
 
2015年、ニュートリノ振動で梶田隆章博士がノーベル物理学賞を受賞されましたが、素粒子物理学全体は、現在、どのような状況にあるのでしょうか。
小林:2つの課題に直面しています。1つは1970年代に確立された標準モデルの先にあるとされる様々な可能性の実験的な検証を行うこと。もう1つは、重力についてきちんと説明できる理論を完成させることです。
素粒子の間に働く力は、電磁力、弱い力、強い力、重力の4種類あり、これらをまとめて考え、統一的に記述しようという試みがなされてきました。
標準理論では、電磁力と弱い力は、グラショウ、ワインバーグ、サラムの理論によって統一的に記述されていますが、これに強い力を含めた3つの力を統一する「大統一理論」についても、そのシナリオを描ける段階にはきています。どのシナリオが正しいかはまだ分かっていませんが…。
ここで問題となるのは、大統一が起こるエネルギーのスケールで、これが非常に高いのです。標準モデルにおけるエネルギーのスケールは、100ギガ電子ボルトとか1,000ギガ電子ボルト程度です。ところが、大統一のシナリオに現れるエネルギースケールは、十数桁も大きなものです。このような大きな隔たりのあるエネルギースケールが共存することを可能にしたいということから出てきたのが、「超対称」という考え方です。
どういう考え方なのでしょう。
小林:素粒子には、スピンが半整数のフェルミ粒子と、整数のボーズ粒子が存在します。超対称性理論では、フェルミ粒子にはボーズ粒子の、ボーズ粒子にはフェルミ粒子の超対称性パートナーが存在するとしています。例えば、スピン1/2で電荷が-1のフェルミ粒子の「電子」には、スピン0で電荷が-1の「スカラー電子」が存在すると予言されています。超対称性理論は標準モデルの先にあるものとして、現在最もポピュラーだといえますね。
この理論が本当だとすると、加速器による粒子の衝突実験で、100ギガとか1,000ギガ電子ボルトのあたりに、対となる新しい素粒子がたくさんあるはずです。それを見つけようと、2012年にヒッグス粒子を発見したCERN(欧州原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)を使った実験が、現在進められています。今のところ、まだ何の発表もありません。
重力のほうはどうでしようか。
小林:重力は他の3つの力と同じような枠組みでは扱いきれないとされており、「弦理論」が最強の候補になっています。物質の究極は点粒子ではなく、振動する極微のヒモだとするのが弦理論ですが、この理論だと重力を矛盾なく取り込むことが可能になります。
弦理論の研究は進んではいますが、これが一筋縄ではいかないものです。許されるヒモの種類とか、空間の次元についてのいろいろな制限が出てくる一方で、ヒモ同士の相互作用を考えると、大変複雑で、もはやヒモだけを考えているのでは済まなくなります。いまのところ、最終的な姿はまだ見えていません。そこでは、根本的な概念の変更を迫られることになるかもしれません。
ご自身も弦理論の研究に携わっていらっしゃるのですか。
小林:自分で手を下すということはありません。横から眺めていて、興味がわいたあたりの勉強をするくらいです。
今、理解を深めたいと思っているのは、弦理論の世界にたくさんあるデュアリティー(双対)の記述についてです。例えば、電磁場の場合、一般的には電場を中心に考えて扱いますが、磁場を中心に考えることもできる。これがデュアリティーです。電場、磁場のどっちを中心にしても、等価な記述が可能です。同様なことが、弦理論の中にもたくさん出てきます。違った見方を包括するような記述に書き換えることができれば、しだいに統合されていき、複雑な世界の見通しがよくなる。そうなれば、理解がもっと進むだろうと考えています。
画:クロイワ カズ

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


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