MENU

日本農業の明日

No.373/2017年5月号
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 理事長 井邊 時雄
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
(農研機構)理事長
井邊 時雄
 
農研機構は、農業にかかわる3つの国立研究開発法人と1つの独立行政法人が統合され、昨年4月に発足しました。いわば日本の農業研究の屋台骨ですが、そのトップとして、日本の農業はどういう方向に進んでいくとお考えですか。
井邊:日本の農業の問題の1つは、担い手が高齢化し、その数が減りつつあることです。農地を集約化して経営規模を大きくすることと、それを踏まえつつ農業の産業としての競争力を強化することが大事です。
農研機構は、大規模経営に必要な技術開発を行い、農業の競争力強化に貢献する必要があります。例えば、大規模経営の強みを徹底的に生かすICT(情報通信技術)の開発と導入などについては、すでに実用化レベルに至っているものもあります。耕す、種をまく、苗を植える、収穫するといった農作業には、従来から耕運機やコンバインなどの機械がありましたが、GPSなどを使って自走し、無人で作業できる農作業ロボットをすでに開発しています。ただ、ロボットだけで作業するのは、安全性などの問題がありますので、当面、1台だけに人が乗り、その下で複数の農作業ロボットが協調して作業するシステムを開発し、その有効性、安全性を実証しています。こうしたICTやロボットを活用した農業を私たちは「スマート農業」と呼んでいます。
農研機構の研究には、(1)生産現場の強化・経営力の強化、(2)強い農業の実現と新産業の創出、(3)農産物・食品の高付加価値化と安全・信頼の確保、(4)環境問題の解決・地域資源の活用と4つの柱がありますが、スマート農業は(1)のテーマの1つですね。
画:クロイワ カズ
産業としての競争力強化として、他に どのようなテーマがありますか。
井邊:日本の農業の強みは農産物の品質が非常に高いことです。美味しく、かつ安全・安心です。そういうものをいかに効率良くたくさんつくるかが、競争力強化の1つになります。(2)の1つにゲノム育種がありますが、これもそれにつながるものです。
2009年に「あきだわら」という食味はコシヒカリと変わらず、収量はずっと多い米を開発しました。DNAの解析技術により、コシヒカリの良食味にかかわる遺伝子が第3および第6染色体に、多収品種がもつ籾数増加の遺伝子が第1染色体にあることが現在では分かっています。良食味と籾数増加の遺伝子の対応するDNAマーカーを使えば、開発した米にこれらの遺伝子が入っているかどうかが即座に分かります。「あきだわら」の開発には25年くらいかかっているのですが、DNAマーカーによるゲノム育種を導入すれば、時間をずっと短縮できるようになります。
高品質の日本の農産物の輸出力強化も大切です。例えばイチゴの長期鮮度保持が可能な包装技術をメーカーと一緒に開発しています。開発した専用容器と包装技術を使うと、3週間程度は鮮度が落ちないことが実証されています。これだけ保てれば、船便での輸送が可能になり、いろいろな国に届けることができます。日本のイチゴの品質は世界で認められていますからね。
理想の農業とはどのようなものだとお考えですか。
井邊:食は生命を育むものであり、その食を支えているのが農業です。ですから、地域経済に貢献するだけでなく、地域全体の環境や暮らしを守り育てることに通じる農業でなければと思っています。そのために、病害虫や気候変動に強い農作物を開発して、天敵などを利用した病害虫の総合的管理(IPM)や温室効果ガスの削減による環境保全型の農業とする研究開発が重要です。競争力があることと環境保全型であることは矛盾するものではありません。様々な動植物が共存する生物多様性は、地域の付加価値を高めることになると思います。農業が地域再生の原動力となり、新たな地域文化が生まれれば、素晴らしいですね。

※本企画は、当社の協賛で日経サイエンス誌に広告として掲載しているものであり、当社の研究開発、製品等と直接の関係はございません


この頁についてのお問い合わせは下記まで