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自慢の喉でクルージングに招待された話 - FINLAND -

No.396/2010.12
機能品・ファインカンパニー/ 渡邊 史信
画:クロイワ カズ

ドイツの駐在員だった頃の話です。ある夏の終わり、私はフィンランドのラハティにいました。フィンランド第2の湖・パイエンネ湖畔のレストランで客先とディナー。こちらの人は食事のときはとても陽気です。特にアルコールが入ると歌もでます。私もはばかりながら歌は得意です。興に乗ってコーラス部時代に覚えた「フィンランディア」の1節を披露しました。この曲は第2の国歌ともいわれ、フィンランドでは知らない人はいません。おぼろげながら原語を交えて歌い終わると拍手喝采。隣のテーブルの客たちもグラスを挙げて、ブラボーと叫んでいます。その中の1人、年のころは50半ばでしょうか、恰幅のよい大柄な紳士が立ち上がって私のところにやってきました。

「キミの歌には感激したよ。今から私の船でクルージングに出るが、一緒に乗らないか」と誘われました。渡された名刺をみると、大手企業の会長です。お言葉に甘えることにしました。

船着場に案内されると、立派なクルーザーです。20人ほどが乗り込み、我々も全員が招待されました。私は会長に招かれて操舵室へ。会長自身が舵を取ります。

パイエンネ湖は琵琶湖の2倍近くあり、約2時間のクルージングでした。会長は一杯機嫌。大声で説明しながら船を進めます。私は湖の上は飲酒運転が許されるのだろうか、と妙なことを思いながら周囲を眺めていました。

夜の10時を過ぎていましたが、白夜の名残で湖畔の白樺が鮮やかです。東の空には、白樺の樹々をシルエットにして大きな月が輝き、湖面に映る月明かりはまるでターナーの名画のようでした。大自然の織りなす芸術と勧められたシュナップスに酔い、私は思わずフィンランディアを口ずさんでいました。