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死海に浮んでも新聞を読めなかった話 - ISRAEL -

No.408/2011.12
宇部マテリアルズ(株)/ 石田 明男
画:クロイワ カズ

ずっと以前の話です。マグネシウムの仕事でイスラエルの死海に出張しました。死海の塩分は海水の10倍もあり、マグネシウム分も豊富。これを原料に金属マグネシウムを生産している工場があるのです。

テルアビブ行きの飛行機に搭乗するとき厳重なチェックがありました。機関銃を突きつけたまま、まるでスパイの取り調べのような質問攻め。飛行機が着くまで緊張していました。テルアビブに降り立ち、すぐに死海に向かって車で移動。イスラエルは砂漠の国かと思いきや、窓の外は見晴るかす緑の草原です。やがて険しい山が迫ってきて、いろは坂のようなヘアピンカーブを登ります。頂上に出ると、眼下にはコバルトブルーの死海が開けました。と、今度は急降下。死海は海抜がマイナス418mなのでジェットコースターで地獄の底へ降りていくような感覚でした。2時間ほどのドライブで地底に到着。辺りはすっかり暗くなっていました。

翌朝5時に起き、水着姿でホテルのビーチに出てみました。目の前に広がる死海は黄緑色の湖面。あちらこちらに析出した塩が白く光っています。空は真っ青なので、青と黄緑と白の異様な世界。死海では水に浮んで新聞を読むことができると聞くので、実験してみました。ホテルの部屋から持ち出した新聞を手に水に入りました。確かに浮力はあるのですが、バランスを取るのが難しく、手にした新聞を拡げようとすると、お尻が浮き上がり、顔が水に浸かってしまうのです。水は塩辛いというより痛いような苦さがあります。何度かトライしましたが、どうも上手く行きません。少し練習が必要だと分かり、次回に持ち越すことにしました。

それから15年。結局、再挑戦のチャンスはありませんでした。