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イオンモビリティ質量分析(IMS-MS)によるポリマー中の顔料の分析

着色料として広く用いられる顔料は溶媒に難溶であり、ポリマーなどのマトリックス中に存在する顔料を液体クロマトグラフ(LC)により分離・分析することは非常に困難です。一般的に、抽出溶媒の検討や精製など多段階の前処理が必要となり、分析に時間がかかります。一方、固体試料を迅速かつ簡便に直接測定する手法として、大気圧固体プローブ(ASAP)イオン化が有効です。しかし、混合物の分析においてはマススペクトルが複雑になり、目的物イオンの特定が難しいことが欠点として挙げられます。

イオンモビリティ分離(IMS)は、"嵩高さ"という新しいパラメーターで混合物を分離する新規分析技術です。ASAPでイオン化された試料をIMSで分離することにより、最小限の前処理だけで、マトリックス中の目的成分を単一のイオンとして検出することが可能となり、ポリマー中に混合された顔料の分析に応用できることがわかりました。

ここでは、マトリックス(ポリエチレン)中に含有された顔料Pigment Red 177のASAP-IMS-MS分析を紹介します。図1に示したASAPのみを用いた場合のマススペクトルでは、ポリエチレンのイオン群の中に顔料イオンが埋もれるように検出されてしまい、精密質量の精度や同位体パターンの解析に悪影響を与えてしまいます。そこで、ASAPにIMS測定を組み合わせることにより、図2に示すようにポリエチレンのイオン群と顔料イオンを分子の嵩高さ(∝Drift Time)により分離することができます。2Dプロット(図2上段)において、帯状にポリエチレンイオンが観測される中で、その分布から外れたところにPigment Red 177のイオンを検出しました。このイオンシグナルを抽出することで、図2下段のようにPigment Red 177単独のマススペクトルを得ることができ、精密質量による組成推定も精度良く行うことが可能となります。

さらに、MS/MSによる構造解析を行う際、ASAPのみの場合ではプレカーサーイオンとして選別しきれなかったポリエチレン由来のプロダクトイオンも検出してしまいます(図3上段)が、IMSを使用することによりPigment Red 177由来イオンのみを抽出することができ、きれいに分離されたプロダクトイオンスペクトルを得ることができます。

図1:ASAP-MSによるポリエチレン/Pigment Red 177混合試料のマススペクトル

図1:ASAP-MSによるポリエチレン/Pigment Red 177混合試料のマススペクトル

図2:ASAP-IMS-MSによるポリエチレン/Pigment Red 177混合試料の2Dプロット(Drift Time vs. m/z)(上段)と抽出マススペクトル(下段)

図2:ASAP-IMS-MSによるポリエチレン/Pigment Red 177混合試料の2Dプロット(Drift Time vs. m/z)(上段)と
抽出マススペクトル(下段)

図3:ASAP-MS/MSによるプロダクトイオンスペクトル(上段)とASAP-IMS-MS/MSによるプロダクトイオンスペクトル(下段)

図3:ASAP-MS/MSによるプロダクトイオンスペクトル(上段)とASAP-IMS-MS/MSによるプロダクトイオンスペクトル(下段)

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