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O539

NMR多変量解析による食用油の熱劣化解析

図1:食用油(45検体)の主成分分析結果(スコアプロット)
図1:食用油(45検体)の主成分分析結果(スコアプロット)

「NMR多変量解析による食用油の組成解析(技術資料「NMR多変量解析による食用油の組成解析」)」にて、食用油(15種)の1H-NMRスペクトルに多変量解析(主成分分析/スコアプロット)を適用することにより、食用油中の組成の評価が可能であることを紹介しました。さらに今回は、その応用例のひとつとして、食用油(15種)に熱劣化処理を施し、それらの熱劣化解析についてNMR多変量解析(主成分分析)を行った事例について紹介します。

熱劣化処理として、大気中のホットプレート上にて、200℃7時間(劣化小)及び200℃40時間(劣化大)加熱を行いました。そして、熱処理を行っていない食用油(未劣化)を含め、計45種の1H-NMRスペクトルを取得し、それらについて主成分分析(スコアプロット)を行いました(図1)。その結果、15種の食用油は、ほぼ同一方向へシフトすることが確認されました。これは、どの食用油においても熱劣化機構は同一であること示唆しているものと考えられます。また、熱劣化が大きくなるに従い、そのシフトが大きくなっていることから、シフトの大きさは、劣化の大きさを示唆しているものと考えられます。これらの結果から、NMR多変量解析(主成分分析/スコアプロット)は、劣化解析においても、有効な解析手法となり得ることが示されました。

また、スコアプロットの分布において、どのシグナルの寄与が大きいかを調べる手法として、ローディングプロットがあります(図2)。NMRの場合、このローディングプロットにおける各点は、各ケミカルシフトに該当します。この各点のうち、スコアプロットへの寄与の小さいものは原点近くに、大きいものは原点から遠ざかります。「未劣化のみ」及び「未劣化+劣化小+劣化大」のローディングプロットのいずれも「アルキル基由来」のシグナル(δ0.9ppm付近、δ1.3ppm付近)の寄与が大きいことが確認されました。これはNMR多変量解析(スコアプロット)にて脂肪酸骨格の違いを識別できる(技術資料「NMR多変量解析による食用油の組成解析」参照)ことの、証左と言えます。一方、「不飽和及びその隣接」のシグナル(δ5.3ppm付近、δ2.0ppm付近)に着目した場合、「未劣化+劣化小+劣化大」において寄与が大きくなっていることが確認されました。これは、熱劣化において、不飽和部分の構造変化を示唆しているものと考えられます。

図2:食用油(45検体)の主成分分析結果(ローディングプロット)

図2:食用油(45検体)の主成分分析結果(ローディングプロット)

これを確認するため、「NMR多変量解析による食用油の組成解析(技術資料「NMR多変量解析による食用油の組成解析」)」と同様に、誘導体化GC分析を行いました(図3)。その結果、熱劣化に伴い、不飽和脂肪酸比率の減少が確認され、上記のローディングプロットの結果(不飽和部分の構造変化を示唆)と整合することが確認されました。つまり、熱劣化に伴って生じているスコアプロット上のシフトの大きさ(図1)は、不飽和脂肪酸の減少と相関していると考えられます。

図3:食用油(45検体)の誘導体化GC分析結果(面積百分率)

図3:食用油(45検体)の誘導体化GC分析結果(面積百分率)

以上の結果、NMR多変量解析(主成分分析)は、劣化解析においても有効な手法である事が示されました。他の様々な有機物を含む試料群においても、例えば今回のように、劣化機構、劣化具合のような評価が行える可能性があり、今後、様々な活用が期待されます。

【出典】
大田陽介、早河裕子、岡田明子、平田真吾、塩成さゆり、森美詞、則武智哉:
NMR多変量解析による食用油の熱劣化解析, 第55回NMR討論会, 広島, 2016

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