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S520

光電子分光用の前処理装置
〜より付着物の少ない前処理へ〜

図1:JISにおける真空領域の区分

図1:JISにおける真空領域の区分

表面分析は主に固体の表面(固体―気体界面)を評価する分析です。中でも試料に光(紫外光、X線等)を照射して発生する光電子を検出する光電子分光法は、試料表面の組成や結合状態を調べることができる有力な表面分析法の一つです。また、電子の非弾性平均自由行程(IMFP)から、光電子分光で得られる情報は表面近傍(<10nm)に限定されており、非常に表面敏感である特徴を持っています。その反面、試料表面の付着物等の汚染の影響を受けやすく、表面汚染の付着防止のため、試料は超高真空中で測定する必要があります。

真空は、表面への付着防止以外にも、酸素や水等との反応を抑制する目的でも有効です。例えば、大気非暴露測定では試料作成から装置導入までをArグローブボックスやSUS製の密封容器を用いることで、中真空相当での試料搬送を可能としています。固体−気体界面における初期の反応速度は気体の分圧に比例するため、大気非暴露測定では大気中に比べ10-3〜10-6倍程度、酸化反応を抑制できると考えられます。

もっとも、1秒間に固体表面に衝突する気体分子の数は高真空(10-4Pa)において1原子にほぼ1個の割合と言われており、超高真空中であっても金属等の反応性が高い表面については測定中に炭素や酸素との反応は進みます。金属の清浄面(炭素や酸素付着による被覆が10%以下)の評価であれば、元素のイオン化傾向と測定時間にもよりますが、10-8Pa程度の超高真空中での試料観察面の作成(劈開やイオンエッチング等)が必要です。金属に比べ反応の緩やかな材料(酸化物、窒化物等)であっても、表面作成からグローブボックスや密閉容器を介して装置へ導入するには数十分単位で時間が必要であるため、光電子分光では付着物の影響が検出されます。

MgO単結晶表面のX線光電子分光(XPS)スペクトルを図2に示します。MgOは大気中の水と反応するためXPSで検出される化学結合状態はMg(OH)2であることがわかります(図中青線)。大気中で劈開した場合も、装置に導入するまでの間に反応が進み、Mg(OH)2が微量検出されます(図中赤線)。超高真空(<10-5Pa)で800℃まで加熱すると水酸基は殆ど除去されますが(図中緑線)、Arグローブボックス(大気圧)を経由するとO1sの531〜532eVの成分(図中※)が僅かに増加することが分かります(図中紫線)。光電子分光は表面敏感で付着物の影響を受けやすい手法ですので、金属だけでなく、酸化物等の清浄面の評価においても汚染の可能性がより低い試料調整が望ましいことが分かります。

図2:MgO結晶の暴露環境によるXPSスペクトルの違い

図2:MgO結晶の暴露環境によるXPSスペクトルの違い

近年の材料開発では、より詳細な表面状態の解析が求められています。そのためには、分析装置の高分解能化や高感度化だけではなく、基準となる材料の情報や雰囲気の制御も益々必要とされています。当社ではXPSに接続された前処理装置を用いることで大気や低真空中に暴露することなく、様々な試料調整のご要望に対応可能です(図3)。特に、従来の光電子分光では評価の難しかった材料をお持ちの方にXPS用前処理装置のご利用をお勧め致します。

図3:XPS前処理室イメージ図

図3:XPS前処理室イメージ図

XPS用前処理装置仕様
到達真空度 10-6Pa
制御温度
  • -50℃〜室温(1気圧のN2中) *2
  • -150℃〜800℃(真空中) *1 *2
  • 室温〜500℃(ガス反応処理) *1
試料サイズ 10×10×3mm以下(真空引き可能な物質に限る)
試料形態
  • 板・フィルム状が望ましい
  • 処理条件によっては粉体も可能
反応ガス
  • ガス種:H2、O2、CO、NO(希釈ガス:Ar)
  • ガス圧:0.1〜1気圧
  • ガス流量:10〜200sccm
  • *1 加熱には特殊なホルダを利用するため、XPS測定中の加熱はできません
  • *2 冷却の場合、XPS測定中の温度制御は-100℃〜500℃です

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