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同じ財布を3度も盗まれた話 - GERMANY -

No.406/2011.10
宇部マテリアルズ(株)/ 南部 洋一
画:クロイワ カズ

20年近くも前のこと。初めてのドイツ出張でデュッセルドルフにある三越に立ち寄りました。夕食前のウインドーショッピングの積もりでしたが、革製品のショーケースにある優雅な長財布に眼が留まりました。ワインカラーの軟らかな皮の上に見事に描かれた縫い目の白い曲線。金の矢印のロゴマークもピタリと決まっています。ドイツの名門、ゴールドファイルです。どうしても欲しくなり思い切って買いました。ホテルに戻り、新しい財布に中身を詰めかえて背広の内ポケットへ。

早速、仲間の待つレストランへと向かいました。旧市街にある「ツーム・シッフェン」。あのナポレオンも来たことがあるという有名レストランです。地図を片手に人混みの中を歩き漸く仲間と合流、楽しい食事を終えました。支払いの段になって胸のポケットに手をやると、無い!買ったばかりの財布がないのです。

次の出張で、また同じ店で同じ財布を買い求めました。
どうしても諦め切れなかったのです。今度は包装のまま、ホテルのスーツケースにしまいました。外出するとき、部屋のキーをキーボックスに落しこむのですが、何時も聞こえるポトンという音がしないのが若干不安でした。帰ってみると、案の定部屋は空き巣に入られた跡が!財布の包みはもちろんありません。

3度目の出張。こうなれば意地です。また同じ店で同じ財布を買い、今度は肌身離さず日本まで持ち帰りました。ところが、数日後、名古屋へ向かう新幹線の中で掏られたのです。窓際に背広を掛け、ものの数分ウトウトした間に、隣の人が居なくなり財布も消えていました。

その後使っている日本製の財布は長持ちしています。そろそろブランド志向を卒業する年齢にもなりました。4度目の被害に遭うことはもうないでしょう。