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縁結びは紹興酒という話 - TAIWAN -

No.407/2011.11
宇部マテリアルズ(株)/ 石田 明男
画:クロイワ カズ

未だ独身で、新米の営業マンだった頃、初めて台湾に出張しました。目的は値上げ交渉。台湾との商談は酒でまとまると聞かされて、下戸の私は決死の覚悟でした。

交渉相手のSさんは格調高い日本語を喋る、優しそうなオジサン。でも要求はとても厳しく、先方の差し値は想定の半値。とても話になりません。日本のボスに電話で相談しても、「負けるな、頑張れ」の一点張り。駆け引きのできない私は頭を下げて粘るだけです。そして遂に合意できる線にまでたどり着いたとき、Sさんは、日本に電話して直接ボスに語りかけたのです。
「このままでは石田さんが日本に帰れないので、値上げを認めることにしました」
聞いていて思わず涙が出そうになりました。

その夜は宴会です。客先からはたくさんの人が出てきて、次々に「カンペイ!」と、紹興酒を勧めます。値上げを認めてくれたので断ることもできず、無理に飲みました。やがて目の前が暗くなり前後不覚。気がつけばホテルのベッドに寝かされていました。時計を見ると日本時間の10時です。酒の勢いということにして、以前から心に留めていた女性に電話することにしました。
「今、台湾。ちょっと酒に酔っちゃってね。寂しかったから」

彼女は趣味で入っているアマチュア・オーケストラのバイオリン奏者。私はチェロを弾いています。
台湾からの電話がキッカケで、彼女との仲はとんとん拍子に進み、その年の暮れにゴールイン。
今では、娘のピアノに夫婦が加わって、ピアノ3重奏のファミリーコンサートを開くこともあります。

早いもので、あれから25年、もう直ぐ銀婚式です。妻を連れて台湾旅行でもしようかと考えています。