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赴任早々駅で野宿した話 - U.S.A -

No.416/2012.08
東京本社経理部/ 鈴木 洋輔
画:クロイワ カズ

5年前、ニューヨークに駐在してすぐの話です。聖パトリックデーの前夜、マンハッタンで仲間としこたま飲んで終電近く、中央駅からハーレム線に乗ったとたんに眠り込んでしまいました。目が覚めると、スカースデール駅。慌てて飛び降りました。3駅も乗り過ごしたのです。駅前は閑散として、タクシーの姿はなく、もちろん上り電車もありません。時計を見ると夜中の2時。

携帯電話はあるのですが、タクシー会社の番号が分かりません。家に電話しようにも、妻は未だ日本に居ます。歩くしかないか。私の住むブロンクスビルまでは10kmほど。知らない夜道を歩き出しました。3月の夜風が薄いコートを通して刺すように冷たく、思わず早足に。住宅街を過ぎ、森のようなところに入りました。真っ暗な森の奥から犬の遠吠えが聞こえます。この辺りには野生のコヨーテがいると聞いたのを思い出しました。危険を感じて引き返すことに。今度は急ぎ足です。気がつくと、後から車のライトが迫ってきます。思わず脇に避けました。通り過ぎる車はパトカー。乗せてもらおうと、慌てて手を振って叫んだものの行ってしまいました。

覚悟を決めて駅で野宿することにしました。とはいえ、吹きさらしの駅には風除けのガラスで囲まれたコーナーがあるだけで、中にはベンチもない!仕方なくコンクリートの地面に座りこんで目を閉じました。お尻の下からどんどん冷えてきます。すっかり酔いも醒めて眠れません。暖房の効いた電車のシートが天国のように思い出されました。

少しウトウトしたでしょうか。周囲が明るくなって目が覚めました。一番電車で我が家に帰り、熱いシャワーを浴びて漸く生き返りました。

このことは今も妻には内緒にしています。