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凶悪事件で家族の絆を確かめ合った話 - CANADA -

No.431/2013.11
建設資材カンパニー/ 佐藤 昭一
画:クロイワ カズ

2004年の夏、カナダはオンタリオ州のサーニアという町の工場に勤務していたときの話です。

夜の8時、帰宅してみるとアパートの周囲が大変な騒ぎ。パトカーのサイレン、ライト、それに武装した特装車。スワット(特殊火器戦術部隊)です。マシンガンを手にした隊員の姿。時折、銃声や悲鳴も聞こえます。それを野次馬が二重、三重に取り囲んで、アパートに近づくこともできません。何事かと、携帯で妻に電話してみました。妻は9才になる下の娘と一緒に人垣の中に居るようです。人混みを掻き分け、連絡を取り合いながら探しました。漸く見つかりましたが、2人ともひどく怯えています。

「何があったんだ?」

「殺人事件らしいの。礼菜(れいな)が家の中に!」

礼菜は11才になる上の娘。3人で外出するところ、出遅れた礼菜が警官に制止されたようです。彼女は家でテレビを点けて事件の概要を妻に電話で知らせていました。それによると、このアパートの一室で殺人事件があり、犯人逮捕にスワットと警察が大挙して駆けつけたとのこと。それ以上のことはサッパリ分かりません。とにかく、喧騒の中で親娘3人がはぐれないよう、事故に巻き込まれないよう、必死でガードしました。

深夜近くになって、何とか騒ぎも収まり警官隊のバリケードも解けました。12階の我が家に帰り着いて、礼菜の無事も確認。テレビのニュースで、男が恋人の部屋に入り込み彼女を殺害、最後は自分も自殺したことを知りました。スリルとサスペンスの数時間でしたが、こんな事件はテレビドラマの中だけで十分です。

でも、ひとつだけ良かったことも…。それは、家族の絆を互いに確認しあうことができたことです。