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パトカーで観光ツアーを楽しんだ話 - U.S.A. -

No.446/2015.02
宇部興産機械(株)/ 唐木 俊男
画:クロイワ カズ

定年退職が近づいてくると昔のことが想い出されます。アメリカ駐在だった20年前の9月、夏休みを貰い、家族でグランド・キャニオンに出かけました。ラスベガスまでは飛行機、空港でレンタカーを借りました。

グランド・キャニオンで一番の見どころはマーサ・ポイントの日の出。2日目の朝、暗いうちに行ってみました。広い駐車場は既に大混雑。何とか空きスペースを見つけて車を停め、トランクから妻と4歳の息子のヤッケを出しました。9月とはいえ相当に冷え込みます。大勢の見物客に交じって御来光を待つこと30分、陽が昇り始め、渓谷の色合いが徐々に変化します。息をのむほど素晴らしい光景。一斉に歓声が上がります。親子ともども感激して車に戻りました。

車を開けようとしたところ、キーがない! 先ほどトランクに入れたまま閉めてしまったのです。窓ガラスをこじ開けようとしてもダメ。当時はまだ携帯電話もなく、オロオロするばかり。他の車は次々に立ち去り、ガランとした駐車場に我々だけが残されました。途方に暮れていると、1台のパトカーが—。手を挙げて助けを求めました。窓が開いて警官が声をかけます。

「どうしたのですか」女性の声です。もう1人は男性警官。すがる思いで事情を話しました。

女性ポリスが言うには、町には専門の鍵屋があり、そこに頼めば大丈夫。無線で連絡をとって此処に呼ぶまで3時間ほどかかる。その間、我々のパトロールに同行してもいいから、後ろに乗りなさい。正に地獄で仏!

パトカーは観光スポットを次々と巡り、3時間ツアーが終わりました。丁度鍵屋も来ていて、無事トランクを開けてくれました。親切な警官のお陰で護衛付きの観光ツアーを堪能することができました。