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高耐熱複合材料向けポリイミド樹脂「PETI-330」に関するNASAとのライセンス契約締結について

2004年6月23日

宇部興産(株)(社長:常見和正)は、NASA(National Aeronautics and Space Administration:米国航空宇宙局)が開発した高耐熱複合材料向けポリイミド「PETI-330」の製造・販売について、NASAとライセンス契約を締結し、6月よりその製造・販売を開始した。

「PETI-330」は、2000年にジョン・W・コーネル博士率いるNASAラングレー・リサーチ・センターのチームが開発し、2002年に米国のSAMPE(Society for the Advancement of Material and Process Engineering:先端材料技術国際会議)で初めて報告されたもので、溶融流動性に極めて優れ、コスト面で有利なRTM(Resin Transfer Molding:樹脂トランスファー成形)法等の成形が可能であり、また、樹脂として最高レベルの耐熱性を有することから、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化樹脂複合材料)に最適であると注目されている。
CFRPは炭素繊維の織物に樹脂を染み込ませて硬化させたもので、軽量で強度の高い特性から、航空機の機体やジェットエンジン、人工衛星、ロケット、宇宙往還機(例:スペースシャトル)などの航空宇宙機器におけるアルミ合金材料の代替部品として使用されている。
このCFRPに使われる樹脂としては現在エポキシ樹脂が用いられているが、耐熱性に限界があるため,更なる高耐熱性樹脂が求められており、その最有力候補としてポリイミド樹脂が考えられている。
しかしながら、現在開発されているCFRP対応のポリイミド樹脂では、耐熱性や機械特性(靭性)が不十分であったり、CFRPの成形が難しく高コストになるといったことから、ごく特殊な用途にのみ限定利用されているにとどまっていた。
「PETI-330」は、ポリイミド樹脂としての前記問題点を全てクリアすると共に、エポキシ樹脂と比較して使用限界温度が100℃以上高く、従来のアルミ合金部品代替のCFRP部品を凌駕するため、更なる耐熱性が要求されるチタン合金部品の代替となるCFRP部品のマトリックス樹脂としても期待される。

宇部興産(株)は、かねてより航空宇宙機器向け高耐熱CFRPの市場に着目し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の横田力男博士と共同で「PETI-330」とは特性が異なる高耐熱ポリイミドの開発にも成功しているが、この分野において早期に同社ポリイミド樹脂の機能性を認知させ、販売を本格的に立ち上げるには、NASAのライセンスの供与を受けることが得策と判断し、今回の調印に至った。

「PETI-330」の製造については、主要原料である非対称型BPDA(ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物)を宇部ケミカル工場で合成することとし、製品である樹脂は既に年産5トンの製造ラインの整備を済ませている。(なお、もう1つの主要原料であるPEPA(フェニルエチニル無水フタル酸)はマナック株式会社(広島県/藤原正憲社長)より供給を受ける。)
2004年度は、米国主要航空宇宙機器メーカーからのサンプル要請に応えるため1~2トンの製造を計画しており、2004年度3億円、3年後には30億円の売上を見込んでいる。

宇部興産(株)は、コア事業としてポリイミド樹脂などを核とする機能性材料事業の強化拡充を図っており、航空宇宙分野をその有望市場の一つとして位置付けて新規製品の開発を積極的に推進している。既にポリイミドフィルム「ユーピレックス」を用いた人工衛星用熱制御材料や超高耐熱セラミック繊維「チラノ繊維」を上市しているほか,高耐熱スポンジ材である発泡ポリイミドのサンプル出荷を開始しており、また、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で特殊計測器の共同開発も進めている。
今回の「PETI-330」製造・販売は、これら航空宇宙分野を指向した事業方針の一環であり、米国市場に続き欧州市場への浸透も図ることを見込んでおり、2010年度には航空宇宙分野で併せて100億円程度の売上を想定している。

「PETI-330」の概要

1.製品姿

黄白色の粉

「PETI-330」 「PETI-330」を使ったCFRP
「PETI-330」 「PETI-330」を使ったCFRP

2.製品の特長

  1. 300℃で長時間(1000時間)の使用に耐える
  2. CFRPの成形が容易で、耐熱性と靭性を兼ね備えている
  3. 硬化前の樹脂の溶融粘度が低く(<10 Pa-sec,288℃)安定しているので、RTM法に適している
  4. 硬化時間は1時間で、ポストキュアの必要はない
  5. 硬化後のガラス転移温度は330℃
  6. 溶剤を含んでいない(揮発分なし)
  7. 有毒性物質を含んでいない

3.特許

NASAライセンス特許:USP6,359,107
関連特許日本、米国、欧州出願済み

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