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L004

EELSスペクトルによるMn酸化状態の解析

図1:カーボン材料のELNESスペクトル

電子が材料に入射すると、電子は材料と相互作用しそのエネルギーを失います。このエネルギー損失量を測定し、材料の組成や結合状態を解析する手法がEELS (Electron Energy Loss Spectroscopy)分析です。内殻励起損失スペクトル領域では内殻電子を励起したコアロス電子がエッジ状に観察されます。エッジ近傍のスペクトルの微細構造であるELNES (Energy-Loss Near Edge Structure)を解析することにより、結合状態の情報が得られます。図1は、DLC(Diamond Like Carbon)膜とグラファイトのELNESスペクトルです。両者のスペクトルが大きく異なるのは結合状態の違いです。グラファイトはsp2結合であり、DLC膜はsp3結合であることに対応しています。本資料では、ELNESスペクトルを用いて、Mn系酸化物の酸化状態を解析しました。

現在、Mn系酸化物はLi二次電池正極活物質として有望な材料です。電池の充放電に伴い、Liイオンは活物質への挿入と活物質からの脱離を繰り返します。この時、Mnの酸化状態を調べることは、電池の特性を向上する上で非常に重要です。図2は、酸化数の異なる様々なMn系酸化物(試薬)のELNESスペクトルです。520eV近傍から観察されるスペクトルがO-Kエッジ(酸素のK殻の電子による励起過程)、630eV近傍から観察されるスペクトルがMn-L2、3エッジ(MnのL殻の電子による励起過程)です。酸化数の違いによりO-KのELNESのエネルギーと形状が変化しています。Mn-L2、3のELNESを比較すると、エッジエネルギーが酸化数の増大と伴に、高エネルギー側にシフトしています。これは、結合エネルギーの増加に対応していると考えられます。さらに、Mn-L3とMn-L2の相対強度比も変化しており、これは伝導体の状態密度(DOS)の変化を示唆しています。この様に、ELNESスペクトルは、Mn系酸化物の酸化状態に関して有用な情報を提供します。

図2:各種Mn系酸化物のELNESスペクトル

図2:各種Mn系酸化物のELNESスペクトル

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