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P310

FT-IRによる劣化ポリエチレンの結晶化度の測定

ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)は結晶性ポリマーです。この結晶性は、ポリマーの物性例えば機械的強度、密度、耐熱性、透明性などを示す尺度として重要なものです。結晶性を評価するために結晶化度を測定することが一般的に行われます。
結晶化度の測定法にはX線回折、DSC、FT-IR、固体NMR法などがあります。本資料ではFT-IR法による結晶化度測定*1について説明します。
FT-IR法では試料フィルムの透過測定を行い、PEの場合1,900 cm-1の結晶性バンドまたは1,300 cm-1の非晶性バンドの吸光度を求めます。結晶化度は次式により算出します。

X = 189 × ( A1900 /t )    ・・・ (1)式 または

X = 100 - 56.1( A1300 /t ) ・・・(2)式

ここで、Xは結晶化度(%)、A1900、A1300は吸光度、tは試料の厚み(mm)を示します。

実施例として、1. 線状低密度ポリエチレン(LLDPE)の結晶化度、および2. 高密度ポリエチレン(HDPE)の劣化物の結晶化度の経時変化を観察した結果を以下に示します。劣化試験としては大気曝露、70℃加熱、土中埋設を行いました。

実施例 1. LLDPEの結晶化度の算出

図1:LLDPEフィルム(密度 0.922、厚み 0.175mm)のFT-IRスペクトル[透過法]

図1:LLDPEフィルム(密度 0.922、厚み 0.175mm)のFT-IRスペクトル[透過法]

吸光度の読みA1900=0.04378、A1300=0.16425および試料フィルムの厚みt=0.175から結晶化度を求めると、(1)、(2)式ともにX=47.3%となります。

このようにPEの結晶化度をFT-IR法により求めることができます。尚、試料によっては結晶性および非晶性バンドに他の吸収が重複し、算出値に差が生じることがありますので注意が必要となります。

実施例 2. HDPEの劣化物の結晶化度の経時変化

HDPE(密度 0.9506 g/cm3、厚み0.5 mm)の大気曝露物について、実施例1.の方法により結晶化度を求めたところ、1,900 cm-1の結晶性バンドを基準とすると結晶化度が100%以上を示す場合があった(他の吸収が重複している)ため、1,300 cm-1の非晶性バンドの吸光度から結晶化度を算出しました。
その経時変化を以下に示します。また同じ試料の70℃加熱物、土中埋設物についても同様に調べてみました。

図2:HDPEフィルムの大気曝露物の結晶化度の経時変化

図2:HDPEフィルムの大気曝露物の結晶化度の経時変化

図3:同試料の70℃加熱物の結晶化度の経時変化

図3:同試料の70℃加熱物の結晶化度の経時変化

図4:同試料の土中埋設物の結晶化度の経時変化

図4:同試料の土中埋設物の結晶化度の経時変化

この結果から、HDPEでは劣化(大気曝露、70℃加熱)の進行とともに結晶化度が高くなる傾向が認められました。一方、劣化が生じていないと思われる土中埋設物では結晶化度の変化はほとんど認められませんでした。

このように劣化PEでは結晶化度と劣化度合に関連性があることが判明しました。

*1 寺西清、菅原浩二:高分子化学、23、512(1966)

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